PMIは、事業再生そのもの
先日、ある会の事業再生コンサルタント講座を受講しました。この講座(セミナー)の講師の先生ですが、具体的なお名前や会社名は載せられませんが、元々は事業再生を中心に業務展開されていましたが、現在は、事業承継投資等を業とするグループ会社の社長として、約20社以上の会社の事業承継後の経営支援、いわば立て直しに専念されています。
このグループ会社の事業承継後(M&A後)の経営支援ですが、原則、被買収側の会社の株式は永久保有を原則とし、エントリーされているプロの経営者(社長)を派遣し、事業承継後の経営支援を行っているということでした。また、この経営者には、被買収会社の内部から次期経営者候補の発掘、育成も課さられているとのことです。なお、この派遣される経営者については、いわゆる経営者保証を求ないことになっているとのこと。
以前に、本ブログ記事「後継者難倒産増加について考える(その2)」でご紹介した株式会社技術承継機構と由紀ホールディングス株式会社のように、M&A後の対象会社のブランディングを重視する手法と同様です。
講演(以下、「お話」)の中心ですが、事業承継又はM&A後の統合作業、一体化作業、いわゆるPMIは、事業再生そのものということでした。
現在、私のブログでは、中小企業庁が公表したPMIガイドラインを中心にPMIについて書かせてもらっていますが、講師の先生の方曰く、”PMIガイドラインと実際のPMIは少し違い、PMIは買収した側又は譲渡会社を取得した者の目指す方向性、目的によって違ってくる”旨の指摘をされていました。そして、現在、展開されている事業承継後のPMIは、事業再生そのものだと、仰っていました。
PMIに最適解はない。ただし、譲渡会社の「強み」は、最大限に尊重、活かす
PMIガイドラインは、事業承継後やM&A後における企業統合が失敗しないための、一つのツール、ノウハウ(知識)なのかもしれませんが、前述の講師の先生の「PMIは買収した側又は譲渡会社を取得した者の目指す方向性、目的によって違ってくる」の言葉どおり、実際のPMIは、答えがない、最適解がないのかもしれません。
それでは、M&A(事業承継を含む)によるシナジー効果を最大限にするためには、どうすればいいのか。メディアでの成功事例や前記の講師の先生のお話などから、特に、大事だと思うのは、譲渡会社の「強み」を正確に把握し、それをどう活かすかを、M&Aを行う準備段階から着地点として、考えておくことだと思います。
それでは、「強み」をどう活かすか?前述の講師の先生は以下のようなことを指摘されていました。
”効率的な資源の再配置が(M&Aの)失敗の温床””100日間は、先代オーナーから学ぶ”
この「効率的な資源の再配置が(M&Aの)失敗の温床」ということについては、私なりに整理すると、数値目標を優先するあまり、買収先企業の「強み(暗黙知や独自文化)」を破壊してしまうことを意味していると思います。シナジー効果ばかりに気を取られ、想定外の企業価値の毀損を招くことだと。
このことを踏まえ、資源の再配置が失敗を招く主な原因と、その対策は以下のことが考えられます。
〇失敗を招く3つの罠
- 人財・ノウハウの流出
- 合理化の名の下に人員削減や過度な業務マニュアル化を急ぐと、買収先が持つ独自のノウハウや顧客との強固な関係性が失われます。
- 企業風土の衝突(カルチャーフィットの失敗)
- 自社のシステムや制度を力づくで押し付けると、買収先の従業員に強い不信感やモラール(士気)の低下を招きます。
- シナジーの過大評価
- コスト削減や生産性の向上(スケールメリット)ばかりを重視し、両社の事業特性の違いを無視した統合を行うと、本来の競争力が低下します。
〇成功のためのポイント
・「統合の100日計画(PMI)」を慎重に実行する
統合初日から急激な変更を行うのではなく、まずは両社の強みを把握し、相互理解に努める期間を設けることが重要。
・「残すべき資産」を見極める
効率化の対象とすべきではない「コアな技術」「キーパーソン」「顧客基盤」をデューデリジェンス(DD)の段階で明確に切り分ける。
・先代オーナーからの人脈などの円滑な引継ぎ
先代オーナーは会社を自分の身体の一部と考えています。先代オーナーから、人脈・業界の仕組み・儲けのしくみなどを徹底的に学び、伝授してもらう。先代オーナーの悪口は、絶対、言わない。
・ブランディングは重要
社名などは可能な限り変更せず、次期社長もプロパー社員から起用する、譲渡会社の従業員ともコミニュケーションを密にし、人材戦略において、「人」を活かすなどブランディングを重要視する。
・スケールメリットを追及し過ぎない
業態にも寄りますが、生産性向上やスケールメリットを目指し過ぎて、譲渡会社の強みやノウハウを減失させないこと。買収後の譲渡会社の経営には、最低限、関与し、収益の源泉であるノウハウを活かす。
そして、「弱み」の把握も必要
これも、M&A準備段階でのデューデリジェンス(DD)の段階において、「問題点」とのその「原因」を把握し、それを克服するための「課題」「改善策」を考え、実行していくことも重要です。この点については、正に「事業再生」そのものになるのではないでしょうか。
そして、「問題点」等を検討していくフェーズでは、買収した側からの上から目線で「粗」(問題点)を指摘するのではなく、その現場をよく知る譲渡会社の従業員(特に、キーパーソン)なども参画させ、検討していくことが重要だと思います。このキーパーソンを参画させることで、見えてなかった「問題点の原因」(先代オーナーには面と言えなかったことなど)が見えてくる可能性があるかもしれません。そして、何より譲渡側社員を参画させることによって、経営改善に主体的に参加することを通じて、モチベーションが上がり、買収側への不満感などから離職していく従業員を減らすことができるかもしれません。
いずれにしても、この「弱み」については、何が問題点の真の原因なのか究明することが大事で、何かに忖度して触れてはいけないものは目をつむる、表面的な対応だけでは、結果が出せない、大手術になります。
シナジー効果は「強み」を活かすことと「弱み」を克服することの両輪が必要
以上、PMIは、単に、知識の実行ではなく、ケースバイケースにより、そのあり様をカスタマイズしていく必要があるかと思います。
まずは「強み」を活かすこと。そのためには、「強み」を実現してきた先代オーナーの持つノウハウの全てを把握、理解、伝授されることが必要だと思います。そして、「弱み」については、大手術という認識のもと、「問題点」の根本をしっかり把握することが必要かと思います。
このどちらが欠けても、シナジー効果の発現は期待できないと考えます。
以上、この記事では、中小のM&A(事業承継も含む)におけるPMI、中小PMIを念頭に記述してきました。話しをセミナーに戻しますが、講師の先生曰く”売上高が10億円未満の会社については、第三者承継による投資対象として難しい”趣旨のお話がありました。
最近、後継者不在率は減少傾向にありますが、その実際は、2極化しているとも言われ、事業承継が進んでいるグループと進んでいないグループがあるとも言われています。
そして、事業承継が進んでいない出遅れのグループの共通項は、売上高10億円未満以下の地方の小規模事業者(70歳代)とも言われています。また、実際に、事業承継・引継ぎ支援センターに寄せられた相談元の事業者の事業規模は、売上高10億円未満が9割で、そのうちの7割が1億円以下ということです。
このように見ると、現実はかなり厳しいようです。後継者不在率が減少しているのは、このような小規模事業者が廃業等していることも、ひとつの要因になっているとも言われています。
しかし、ニッチで買い手が現れない産業でも、地元事業者の仕入れ先として必要な企業もあるかと思います。中小M&A及び中小PMIについては、その対象会社の潜在的価値やそれをどう活かしていくの見極めを事業デューデリジェンス(DD)の段階において、明らかにすることが必要で、そこで、事業再生の可能性の是非を検討することが大事な作業になるのだと思います。
