PMI、Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)、という言葉をご存じでしょうか。直訳すると、「会社合併後の統合、一体化」という内容になるでしょうか。もう少し、難しい言い方をすると、M&A成立後の統合プロセス又は統合作業のことを指します。
今回から暫くの間、事業再生士補及び事業再生アドバイザー並びに事業承継アドバイザーとして、中小企業に関連したPMIについて、中小企業庁が公表している「中小PMIガイドライン」(令和4年3月)ほか、中小企業庁が公表しているPMI関連の資料(実践ツール・活用ガイドブック等)に基づき、数回に分け、記述していきたいと思います。
中小企業におけるM&Aの課題(内閣府ミニ白書から)
PMIそのものについて記述する前に、本年2月に内閣府が公表した「2025 年度 日本経済レポート 物価高を乗り越え、「強い経済」の実現へ」(以下「白書」)のP163からP178にかけ、日本企業におけるM&A(合併・買収)の動向と、それが企業の生産性に与える影響を分析した内容がまとめられていますので、その中から、PMIに関する内容を中心にその概要について、ご紹介したいと思います。
サマリー
白書では、日本企業におけるM&Aの動向と、それが企業の生産性に与える影響を多角的に分析しています。
日本企業によるM&Aは2012年以降急増し、2025年には5,115件と過去最高水準に。主な目的は既存事業の規模拡大やシェア拡大であるが、製造業では技術や設備を囲い込み、競争力を高める姿勢が顕著。また、近年、中小企業を中心に事業承継を目的とした合併が急増しており、全体として、M&Aは営業利益率、ROA(総資産利益率)、労働生産性、および1人当たり賃金を統計的に有意に押し上げる(=向上させる)効果が確認されるとしています。
一方で、中小企業ではM&Aが事業承継の手段として浸透しているが、買収先の経営・組織体制の脆弱さや情報の非対称性により、期待した効果を得られていないケースが約4割にのぼる。特にPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)の認知度が極めて低く、この取組の成否が課題となっていると指摘。
このようなことから、M&Aは日本企業の生産性を高める有力な手段であるが、特に製造業や中小企業においては、統合プロセス(PMI)の知見共有や、外部専門機関・金融機関による適切な伴走支援が不可欠であると結論付けています。
中小企業のM&Aにおける課題とPMIの重要性について
前述のとおり、中小企業におけるM&Aは、近年、経営者の高齢化などに伴う事業承継の手段として浸透しており、成約件数も増加傾向にあります。しかし、その一方で統合プロセスには多くの課題が残されており、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)の重要性が浮き彫りになっています。
中小企業のM&Aにおける課題
白書では、中小企業のM&Aにおいて、当初の目的、つまり、期待した効果(売上や市場シェアの拡大など)を「ほとんど達成できていない」または「一部達成にとどまった(失敗もあった)」とする企業は約4割に達しているとしています。
目的を達成できなかった最大の理由として、「相手先の経営・組織体制が脆弱だった」(3割超)が挙げられています。これは、買収前に相手先の企業価値や経営体制を十分に見極められないまま、情報の非対称性が存在する状態で買収に踏み切っている企業が多いことを示唆しています(情報の非対称性と事前の見極め不足。)。
また、それ以外の要因として、経営統合に向けた自社の準備不足、相手先の従業員の離職、戦略(ビジョン)の欠如などが効果を達成できない要因として指摘されています。
PMIは、M&Aの目的を実現させ、統合の効果を最大化するために必要なプロセスを指します。中小企業におけるM&Aを成功させ、生産性を向上させるためには、この統合プロセスをいかに着実に実行できるかが鍵となります。
低い認知度と実施率
白書では、中堅・中小企業を対象とした調査では、PMIという言葉を「知らない」と回答した企業が7割を超えているとしています。また、実際に取り組んだことがある企業は約3%に過ぎず、今後意欲的に取り組みたいとする企業も約25%にとどまっているとしています。
成功の鍵としての「親会社」の存在
一方、白書によれば、中小企業の中でも、親会社を有する企業はM&A後に高い生産性を実現している傾向があります。これは、親会社が持つ統合のノウハウを有効活用できていることや、グループ内合併による統合コストの低さが要因と考えられます。裏を返せば、単独の中小企業にはこうした統合ノウハウが蓄積されていないことが大きな課題となっているようです。
白書での結論
以上のことから、白書では、中小企業内だけでPMIを完結させるのは困難であるため、取引金融機関や外部の専門家等と連携し、ノウハウを補完しながらPMIの取組、統合を着実に実行していくことが重要としています。また、買収相手の適切な評価基準の普及や、M&A実施後の統合プロセスに関する知見の共有など、官民が一体となって後押ししていくことが重要としています。更には、金融機関又はやその金融機関の投資専門子会社等である投資ファンドを通じて、単なる仲介だけでなく、事業承継やM&Aに関するアドバイス、さらには資本性資金の提供といった 、資本性資金の提供とM&Aアドバイザリー支援を一体的に行うことが企業の生産性向上を後押しする上で効果的であるとしています。
PMIには、教科書的な最適解がない
M&Aにおける買い手側(譲受企業)の主たる目的は、「『既存事業の維持・成長』と『新規事業の開拓』」の2つに分けられます」(「スモールPMI実務入門」(中央経済社 著者者:寺島直史ほか 第1版)P12)。
これらの目的を達成する鍵がシナジー効果を最大値にすることと言われています。シナジー効果?抽象的な表現ですね。
事業規模(商流)や事業価値等がM&A前後で変わらないのであれば、M&Aは成功したとは言えないでしょう。シナジー効果とは、M&Aにより+αが生じるということだと思います。そして、この+αを生み出す、実現するツールがPMIです。
しかし、このPMIは、そのツールをそのまま当てはめる手続きではなく、対象企業の状況に応じて、カスタマイズしていかなければいけないものだと考えています。
譲渡企業又は譲受企業それぞれ経営手法や組織体制、戦略や戦術、管理体制や業務フロー、各作業方法、サービス又は製品・商品の質、従業員のスキルなど千差万別です。また、中小企業の場合、それらの各機能に多くの潜在的な問題があったり、決算書や契約関係書類などに、誤謬(ごびゅう)や不備等も結構あるようです。
PMIでは、これら個別の事情に応じて、対象企業の問題点を洗い出し、原因を突き止め、統合に向けた改善策を講じることが必要となります。
単純に、1+1は2というわけにはいかず、教科書的な最適解はないのだと思います。個々の事案に応じ、当該事案に則した最適解を見つけ、導いていくこと(シナジー効果の発現)が、PMIを実行していく実務担当者の重要な役目、役割になるのだと考えます。
ある成功事例
昨年ですが、ある新聞記事にM&A後の経営統合の成功事例が掲載されていました。概要は、以下のとおりです。
地方の中小の運送業者の事例。この事業者会社は、既に、複数の事業会社をM&Aで買収。M&A後のPMIについて、譲渡企業(売り側)の従業員とのコミニュケーションを重視。上から目線ではなく、M&Aについて理解を求め、さらに統合に向けた必要な作業項目を一覧にしたタスク表を策定し、全体像や進捗状況を可視化。「経営統合」、「理念の統合」、「業務の統合」など、統合作業の検討にあたっては、押し付けではなく、譲渡企業及び譲受企業の従業員もその検討のためのミーティングに参加させる従業員参加型作業を導入。これらにより、効率的な統合が進められたと言っています。
さらに、着目すべきは、ブランディング。譲渡側企業の社名は可能な限り変更せず、社長もそのプロパー社員から登用、また、その後継者についても、番頭格のプロパー職員を次期社長として育成しているとのことです。
なお、この事業会社は、M&Aにおいて、事前準備も重要であるとしています。買収の対象領域(事業領域)の絞り込み(事業戦略)作業がM&Aを成功させるため必要不可欠とも言っています。
この運送業者の成功事例の内容に関連して、PMIの内容ではありませんが、本ブログ記事「後継者難倒産増加について考える(その2)」でもご紹介した「技術承継機構」という会社の中小企業のM&Aに関する記事が日本経済新聞の朝刊(4/9)に掲載されていました。
同社は、買収対象企業の絞り込みを綿密に行い、買収後も対象企業を売却しない方針を基本とし、買収後の対象企業の経営の独立性を尊重(後継者は買収先の生え抜きから選定、子会社として扱わない、経営の決定は、基本、対象企業に任せるなど)するなどして、会社設立から7年で既に19社をM&Aにより買収、傘下に置いています。
この技術承継機構と前記の運送業者との共通点は、譲渡企業の従業員(人材)を活かすということを重点、基本的にそれを維持・実行していること、また、シナジー効果が得られるようなところしか買収対象に選ばないという点です。
これは、言い方を変えると、M&A実行の段階で、PMIを先取りしているとも言えます。
さらに、技術承継機構では、買収した企業の経営の独立性は尊重するが、弱みについては、その克服に力を注いでいるとのことで、これは正に、PMIに当たる部分です。経営の独立性(良い後継者、強み)を活かし、弱みを補完するという、PMIそのものになると思います。
中小M&Aの問題点は、中小企業に内在する問題と不十分なDD
前記の白書で、M&A後において、当初の目的である期待した効果を「ほとんど達成できていない」または「一部達成にとどまった(失敗もあった)」とする企業が約4割に達している状況について、その最大の理由が「相手先の経営・組織体制が脆弱だった」(3割超)が挙げられるなど、、買収前に相手先の企業価値や経営体制を十分に見極められないまま、情報の非対称性が存在する状態で買収に踏み切っている企業が多いことを示唆していることと前記の運送業者と技術承継機構が買収後も上手く行っていることについてのとの差は、やはり、買収企業の調査、デューデリジェンス(DD)の不徹底があると思います。
もとより、中小企業については、経営を含む事業内容や決算書を含む財務諸表、予算管理、契約関係について、不備や誤り、問題点を抱えているケースもあるようで、経営者や従業員自体もそれを認識せず、問題とも思わず、M&Aによる買収後、それらが顕在化しているケースも多々あるようです。
そして、そのようなに潜在的な問題を抱えている確率が高い中小企業を買収するのであれば、十分なデューデリジェンスな必要になるかと思いますが、中小企業の場合、財務DDや事業DD、法務DDが十分になされていないケースが多いようです。
まとめ(PMIの重要性)
経営者の高齢化と後継者難、中小M&Aの普及、黒字廃業・解散の増加などを背景に中小企業のM&Aの必要性は、今後、益々、高くなり、中小M&Aを通じた中小企業の生産性の向上等は、日本再生の原動力にもなり得ると思います。
そのようなことを背景に、前記の中小M&Aの問題を踏まえると、中小企業におけるPMIの役割は、中小M&Aの成否を左右する重要な役割があるのだと、あらためて思います。
これで、第1回目の記事は終えたいと思います。
