非上場株式の評価ルールが62年ぶりに大転換? 「相続税評価の見直し」を解説

(Google Gimini にて生成)

 はじめに

 2026年4月、国税庁は「取引相場のない株式(非上場株式)の評価に関する有識者会議」を立ち上げ、相続税・贈与税における非上場株式の評価方法の抜本的な見直しに着手しました。現行の評価ルールが定められたのは1964年(昭和39年)で、実現すれば実に62年ぶりの大改正となります。

 中小企業のオーナー経営者やその後継者にとって、株式の評価額は事業承継や相続の際の税負担に直結する重要な要素です。本記事では、まず現行の評価ルールを整理したうえで、見直しの背景と新ルールの方向性、現行制度との比較、そして想定される影響について解説します。

(本記事は2026年9月時点の情報に基づく速報的な内容です。有識者会議での議論は継続中であり、今後の展開によって内容が変わる可能性があります。)

目次

現行ルールの概略

 非上場株式(取引相場のない株式)は、相続や贈与によって株式を取得した株主が、その会社の経営支配力を持つ「同族株主等」に該当するか、それ以外の「少数株主」に該当するかによって、評価方法が大きく2つに分かれます(国税庁が定める「財産評価基本通達」という内部ルールによって厳密に決められています。)。

(1) 原則的評価方式(同族株主等が対象)

 会社の総資産価額・従業員数・取引金額に応じて、評価対象会社を「大会社」「中会社」「小会社」のいずれかに区分し、それぞれ次のような方式(またはその併用)で評価します。

  • 類似業種比準方式(主に大会社に適用) 上場している類似業種の株価をベースに、評価会社の「配当金額」「利益金額」「純資産価額(簿価)」の3要素を比較して株価を算定する方法です。
  • 純資産価額方式(主に小会社に適用) 会社の総資産・負債を相続税評価額で洗い替えて算定した純資産額をもとに株価を算定する方法です。
  • 併用方式(中会社に適用) 上記2方式を会社規模に応じた割合で組み合わせる方法です。

(2) 特例的評価方式(少数株主が対象)

 経営支配力を持たない少数株主については、配当還元方式が用いられます。これは、直近2期の配当実績をもとに、一定の還元率(現行10%)で株価を割り戻して評価する方法で、原則的評価方式に比べて評価額が低く算定される傾向があります。

(3) 総則6項(伝家の宝刀)

 財産評価基本通達は国税庁内部のルールであるため、税務署はこれに従った納税者の評価を通常は否認できません。しかし、通達に定める評価方法をそのまま適用すると「著しく不適当」と認められる特別な事情がある場合には、国税当局が個別に別の評価方法(時価)を採用できるとする例外規定があります。これが「総則6項」で、近年、この適用の是非をめぐって納税者と国税当局の争いが増えていました。

見直しの背景

 今回の見直しの発端は、2024年11月に会計検査院が公表した報告です。会計検査院は、類似業種比準方式による評価額が純資産価額方式による評価額を大きく下回る傾向にあり、会社規模が大きいほど株式の評価額が相対的に低くなるという、規模間の不公平が生じていると指摘しました。

 あわせて、以下のような制度上の「歪み」も論点となっています。

  • 類似業種比準方式の比準要素である「配当」について、分析対象会社の8割超が無配であるにもかかわらず評価額を下げる要因として機能しており、実態を適切に反映できていないおそれがあること
  • 配当還元方式の還元率(10%)が1964年制定当時の金利水準を前提としたまま、その後の金利低下を反映せず見直されていないこと
  • 会社規模の意図的な操作(組織再編やグループ法人税制の活用など)や、無議決権株式を利用した配当還元方式の濫用など、評価額を圧縮する租税回避スキームへの対応が必要とされていること
  • 個別事案ごとの総則6項の適用では納税者の予測可能性を確保できないため、通達そのものを改正することで対応すべきという問題意識

 こうした背景から、国税庁は2026年4月20日に有識者会議の第1回会合を開催し、以降、月1回程度のペースで議論を重ねています(2026年8月時点で第5回まで開催)。

新ルールの概要(現時点での議論の方向性)

 有識者会議での議論はまだ結論に至っていませんが、これまでの資料からは、おおむね次のような方向性が見えてきています。

  • 類似業種比準方式の見直し:「配当」要素の廃止または比重の引き下げが検討されており、代替として「残余利益方式」や、減価償却の影響を受けにくいEBITASGA等の新指標の導入も議論されています。また、会社法上の株式価格決定訴訟やM&A実務でDCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)が主流となっている実態を踏まえ、類似業種比準方式そのものの存廃を含めた検討も行われています。
  • 会社規模区分の操作への対応:組織再編等を利用した恣意的な会社規模の変更によって評価額を圧縮する行為を防ぐためのルール整備が検討されています。
  • 配当還元方式の扱い:制度として一定の範囲では存置せざるを得ないとしつつ、その適用範囲や必要性の説明、還元率の妥当性が論点となっています。従業員持株会や税制適格ストックオプションへの影響も考慮する必要があるとされています。
  • 総則6項との関係:個別否認ではなく通達改正によって評価方法自体を適正化し、納税者の予測可能性を高める方向で検討が進められています。

 想定スケジュールとしては、2026年内の議論を経て2027年度(令和9年度)税制改正大綱への反映を目指し、2027年春頃にパブリックコメントを実施したうえで、早ければ2028年1月1日以後の相続・贈与から新ルールが適用される可能性があるとされています(法律改正ではなく、「財産評価基本通達」の改正になります。)。

現行ルールとの比較

 

項目現行ルール新ルール(検討中の方向性)
類似業種比準方式の要素配当・利益・純資産の3要素配当要素の廃止・比重引き下げ、残余利益方式やEBITDA等の新指標導入を検討
会社規模間の公平性規模が大きいほど評価額が相対的に低くなる傾向規模間の乖離を是正する方向で見直し
配当還元方式の還元率10%(昭和39年の金利水準を反映)近年の金利水準を踏まえた見直しを検討
租税回避スキームへの対応総則6項による個別否認が中心通達改正による制度的な手当てを志向
評価額の水準相対的に低く算定されやすい全体として引き上げられる方向
適用時期早ければ2028年1月1日以後の相続・贈与から(見込み)

想定される影響

 (1) 相続税・贈与税の負担増加の可能性

 見直しの主眼は、過度な節税スキームを封じ、規模間の公平性を確保することにあります。国税当局は今回の見直しについて、相続税率の引き上げや基礎控除の縮小を目的とするものではないと説明していますが、結果として株式評価額が全体的に引き上げられれば、事業承継や相続の場面で税負担が増加するケースが出てくると見込まれます。

(2) 中小企業の事業承継への影響

 事業承継の準備には一般に5年以上を要するとされており、制度改正の議論が固まりつつある現段階から、早期に対応を検討する必要性が指摘されています。株価が上昇すれば、後継者の納税資金の確保がより重要な課題となります。

(3) ストックオプション・従業員持株会への波及

 配当還元方式の見直しは、税制適格ストックオプションの評価額や従業員持株会の株式取得価格にも影響が及ぶ可能性があります。特にスタートアップにおいては、通達評価額の上昇が株式報酬費用の増加につながり、IPO準備期の損益に影響を与える懸念も指摘されています。

(4) 実務上の予見可能性の向上(プラス面)

 一方で、これまで総則6項の適用をめぐって納税者と国税当局が個別に争ってきた領域について、通達そのものが改正されれば、評価方法があらかじめ明確化され、納税者にとっての予測可能性が高まるというメリットも期待されます。

まとめ

 非上場株式の評価ルールの見直しは、1964年以来となる大規模な制度改正であり、中小企業のオーナー経営者から上場を目指すスタートアップまで、幅広い関係者に影響を及ぼす可能性があります。現時点(2026年9月)では有識者会議での議論が続いている段階であり、具体的な通達改正の内容や適用時期は確定していません。

もっとも、事業承継や相続の準備には相応の時間を要することから、今後の議論の動向を注視しつつ、税理士などの専門家に相談して、現状の株式評価額や保有資産構成を早めに棚卸ししておくこと(現状把握)が望ましいといえるでしょう。


本記事は公開情報をもとに作成した一般的な解説であり、個別の税務相談については税理士等の専門家にご確認ください。

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