「企業価値担保権」の利活用

(Google Geminiにより生成)

 「事業性融資の推進等に関する法律(令和6年法律第52号)」(以下、「事業性融資推進法」)に基づき、2026年5月から導入される企業価値担保権は、不動産や個人保証に頼らず、企業の将来性や無形資産を評価して資金供給を行う新しい制度です。この制度では、ノウハウや顧客基盤を含む事業全体を担保とすることで、スタートアップや事業承継を控えた企業の円滑な資金調達を支援します。金融機関には、融資後も事業計画の進捗を共有する伴走型のコミュニケーションが求められ、信頼関係の構築が重要視されています。万が一の債務不履行時には、事業を解体せず一体として譲渡することで、雇用や取引関係の維持を図る仕組みが整えられました。国は、専門的な助言を行う認定支援機関の整備やガイドラインの策定を通じて、この新しい融資実務の普及と定着を後押ししています。

 本記事では、この企業価値担保権について、事業再生局面や私的整理、プレDIPファイナンス、ABL(Asset Based Lending:動産・債権担保融資)との関係について、考察していきたいと思います。

目次

企業価値担保権が拓く事業再生の未来形態

 「事業性融資推進法」における企業価値担保権は、再生局面(窮境期から再生期)において、事業の継続と価値の維持を最優先し、円滑な再起を支えるための画期的な仕組みを備えています。主なポイントを以下の4つの視点で解説します。

1. 「清算価値」から「継続企業価値」への転換

 従来の担保制度(抵当権等)は、会社が破綻した際に土地や機械などの「個別資産の清算価値」から回収することを前提としていました。 これに対し、企業価値担保権は、ノウハウや顧客基盤などの無形資産を含む「事業全体の価値(継続企業価値)」を担保とします。これにより、金融機関は会社を解体して回収するよりも、事業を継続させて価値を維持・向上させる方が合理的であるという動機付けを持つようになります。

2. 再生を支える実行手続(事業譲渡が原則)

 債務の弁済が滞り、担保権が実行される際の手続は、事業の解体・清算を目的とした「競売」ではなく、裁判所の監督下で管財人が事業を一体として承継させる「事業譲渡」が原則となります。

  • 事業の維持: 事業を継続しながらスポンサーへ譲渡することで、企業価値の毀損を防ぎます。
  • 雇用の維持: 事業を一体として承継させることは、労働者の雇用の安定にも直結します。
  • 関係者の保護: 担保権実行の対価からは、商取引債権や労働債権(賃金等)が金融機関への返済に優先して弁済されます。これにより、取引先との関係や従業員の協力を得ながら、円滑に事業を引き継ぐことが可能となります。

3. 早期の経営改善と伴走支援

 企業価値担保権は、事業が悪化してから機能するだけでなく、悪化の兆候を早期に捉えるための対話ツールとしても機能します。

  • 予防的アラート: コベナンツ(財務・非財務の特約)などを活用し、業況が悪化する前の段階で金融機関と経営者が対話を開始します。
  • 情報の非対称性の解消: 金融機関が事業全体を把握することで「情報の非対称性」が軽減され、窮境時にも迅速な支援検討が可能になります。
  • メインバンクの明確化: 負債構造が簡明になり、複数の貸し手による利害調整のコストを抑え、迅速な経営再建に着手しやすくなります。

4. 経営者の再挑戦の支援

 本制度を利用する場合、粉飾等の例外を除き、原則として経営者保証が制限されます。これにより、経営者は個人資産を失う過度な恐怖を感じることなく、価値ある事業を次世代やスポンサーに引き継ぐ決断を早期に下せるようになり、再挑戦の機会を確保しやすくなります。

今後の有効な活用方法

DIPファイナンスとしての活用(法的整理局面) 

 法的整理手続中に必要となる運転資金の融資において、裁判所の許可を得て、既存の劣後する債権よりも優先する地位(Priming Lien)を付与した企業価値担保権を設定することで、リスクのある窮境企業に対しても新規融資(ニューマネー)を引き出しやすくなる可能性が出てきます。

第二会社方式による再スタート(抜本再生局面)

  過剰債務に陥った旧会社から、採算部門や価値ある事業のみを切り出して新会社(第二会社)を設立する際、個別資産を持たない新会社であっても、将来創出するキャッシュフローやのれんを企業価値担保権で一括担保化することにより、リスタート資金を円滑に調達できる可能性が出てきます。

エグジットファイナンス(再生脱却局面)

 再生計画が順調に進み、窮境期から脱しつつある企業が、既存の再生手続債務を全額リファイナンスして平時へ早期復帰・再成長するための資金調達手段として極めて有効な手段になり得ります。

「停止条件付保証」への転換を絡めたリファイナンス 

  既存の包括的な経営者保証を、企業価値担保権への切り替えを機に「粉飾決算」「資産の私的流用」「報告義務不履行」といった重大な不誠実行為(例外事由)があった場合のみ発動する「停止条件付保証」へと移行させ、リファイナンスを行い、これにより、誠実な経営者・後継者が過度なリスクを負わずに事業に挑戦・専念できる環境が整備される可能性が出来ます。

成長局面(スタートアップ・新興企業)・親族外承継・M&A

  • ベンチャー・デット: 持ち分の希薄化を避けるため、エクイティではなくデットでの調達を希望するニーズに対応。
  • 有形担保を持たないサービス業: 店舗を賃借している飲食チェーンやSaaS企業など、ブランドや顧客基盤が価値の源泉である企業の資金調達。
  • 親族外承継・M&A: 買い手が個人保証を負わずに、事業の将来キャッシュフローを裏付けとして承継資金を調達する(LBOファイナンス等、全資産担保を前提としているファイナンス)。

プレDIPファイナンスにおける活用の可能性

 法的整理(民事再生・会社更生など)へ移行する直前の「プレDIP期」や、移行後の「DIP期」において、最も深刻な課題は「事業継続のための運転資金(ニューマネー)の不足」です。

法的基盤による新規融資の呼び込み

 従来のプレDIP融資は、差し入れる担保が残っていないことが多く、非常にハイリスクな融資でした。企業価値担保権を活用すれば、個別の有形資産が担保に縛られていても、「将来創出されるキャッシュフローや事業全体の継続価値(のれん等)」を一体として一括担保化できます。これにより、リスクをとって資金を出す金融機関(ファーストペンギン)に対して確かな法的保全を提供できるため、資金供給を強力に後押しする環境は出来ました(但し、現実はそう簡単には行かないと思いますが。)。

 既存担保権の実行に対する「異議申立」による事業解体の阻止

 プレDIP期に、一部の個別担保(不動産や機械など)を持つ債権者がしびれを切らして担保権を実行したり、一般債権者が強制執行を申し立てたりすると、事業が解体され再生が不可能になります。 企業価値担保権者は、「事業の継続に支障を来すような他の担保権の実行等に対して異議申立(裁判所への手続き)ができる規律(事業性融資推進法第19条)」を有しています。これにより、法的整理へスムーズに移行するまでの間、事業を一体として守り抜く「防壁」として機能する可能性があります。

私的整理における活用の可能性

 私的整理(中小企業活性化協議会や事業再生ADRなど)の最大のボトルネックは、「多数の金融金融機関がばらばらに融資を行っていることによる、利害調整コストの肥大化と意思決定の遅れ」にありました。 

複雑な負債構造の抜本的整理(メインバンクによるリファイナンス)

 私的整理の開始にあたり、メインバンク(または特定の主要行団)が、経営者保証を求めて非協力的な態度をとる他行の残債をすべて買い取るなどして「全額リファイナンス」を行い、その上で新融資と共に企業価値担保権を第一順位で設定。
 これにより、貸し手の利害関係がシンプルになり、私的整理の合意形成や抜本的な経営改革の意思決定スピードが劇的に向上する可能性があります。

商取引債権・労働債権の優先保護による「事業価値の毀損防止」

 私的整理において、取引先(商取引先)や従業員に「この会社は危ない」と察知されて取引停止や規律の緩み、人材流出が起きると、それだけで事業価値(継続企業価値)は大きく劣化します。 企業価値担保権の規律では、万が一、私的整理が不成立となり担保権が実行される事態になっても、事業継続に必要な「商取引債権」や「労働債権(未払賃金)」が、金融機関への返済よりも最優先で随時弁済される設計になっています。 この法的安心感があるため、私的整理の協議中であっても取引先や従業員の協力を維持しやすく、事業価値を毀損させずに再生手続きを進めることができる可能性が出てきました。

経営者の早期決断を促す「停止条件付保証」への移行

 私的整理において、経営者が「破綻したらすべてを失う」と怯えて決断を先延ばしにすると、手遅れ(清算・破産)になります。 私的整理の計画策定時において、包括的な個人保証を解除し、粉飾や資産の流用などの不誠実行為がない限り発動しない「停止条件付保証」へ移行させる要件として企業価値担保権を設定。。誠実な経営者であれば私生活(自宅など)を脅かされない法的環境が整うため、経営者は早期に私的整理や事業譲渡などの「前向きな再挑戦」へと舵を切ることが可能になります。

中小企業が企業価値担保権を利用するシーンの想定

利用の中心は、当面、リファイナンスが中心か

 企業価値担保権については、施行してまだ日が経たないですが、新聞報道によると、地方金融機関などにおいて、先駆けて企業価値担保権を設定した融資実行している記事も見受けられます。ただ、その記事の中でも、多くの金融機関では、まだ、成功事例も少なく、様子見のスタンスということも書かれていました。

 このため、中小企業、とりわけ、地方の中小企業が企業価値担保権を利用できる場合は、当面は、既存の借入れを企業価値担保権を活用した融資へ借り換える(リファイナンスする)するケース、又は、私的整理・プレDIPファイナンスの一歩手前でのリファイナンスするケースが主なものになると思います。この場合、前述と重複する内容も含まれますが、中小企業・地方金融機関双方にとって主に以下のメリットがあると思われます。

1. 経営者保証・後継者保証の解除

 最大のメリットの一つは、原則として経営者保証(個人保証)を外すことができる点です。

  • 既存の融資で設定されている個人保証を、借り換えによって企業価値担保権へと切り替えることで、経営者やその後継者の精神的・経済的負担を軽減できる可能性があります。
  • これにより、保証がネックとなっていた円滑な事業承継や、思い切った事業展開、早期の事業再生が可能性が高まります。

2. メインバンク関係の明確化と伴走支援の強化

 複数の金融機関からの借入れを1行(または特定の銀行団)が借り換えて企業価値担保権を設定することで、メインバンクとしての責任ある支援体制が構築されることが期待されます。

  • 取引が1つに集約されることで、金融機関との「情報の非対称性」が解消され、事業者は自身の事業実態や将来性をより深く理解してもらえる可能性が高まります。
  • 地方金融機関側も、事業全体の価値を担保として把握することで、平時からのコンサルティングや、業況悪化時の迅速な経営改善支援を行う動機付けが強まると思います(綿密なコミニュケーションの強化)。

3. 複雑な負債構造の整理

 多数の金融機関から別々に借入れを行っている場合、権利関係が複雑になり調整コストが嵩みますが、借り換えによって負債構造を簡明に整理できます。

  • これにより、特に事業再生などの窮境局面において、複数の貸し手による利害調整のコストを抑え、迅速な意思決定が可能となります。
  • また、担保設定に係る事務コスト(登録免許税等)も、個別資産を積み上げる従来の全資産担保実務に比べて大きく削減できる可能性があります。

私的整理時おける複数行によるシンジケートローン

 前記のとおり、まだ、その実効性や成功事例が出てない企業価値担保権については、地方銀行や信用金庫などが協調して地域企業を支える私的整理において、1行だけでリスクを抱え込むのが難しいケースもあろうかと思います。
 しかし、その場合は、信託契約の仕組みを活用し、少数の主要行団で同一の企業価値担保権を「同順位等で共有」し、シンジケートローンを組む手法もあるかと思います。あらかじめ信託契約内で窮境時・再生時の意思決定ルールや極度額の調整方法(米国における債権者間協定のような規律)を明確化しておくことで、私的整理の局面でも足並みを揃えた迅速な伴走・ニューマネー供給が可能となり得ます。

企業価値担保権とABL(Asset Based Lending:動産・債権担保融資)との違い 

 事業性融資推進法によって新たに導入される「企業価値担保権」と、既存の「ABL(Asset Based Lending:動産・債権担保融資)」は、いずれも不動産担保や経営者保証に依存しない新しい融資手法です。
 これらは「不動産以外の資産を活用する」という点で共通する部分もありますが、担保の対象範囲、価値評価の思想、法的枠組み、目的において明確な違いがあり、実務上は相互に補完・関連し合う関係にあります。

企業価値担保権とABLとの違い

 最大の違いは、ABLが「個別の処分可能な有形資産」に着目するのに対し、企業価値担保権は「事業全体が将来生み出す経済価値(無形資産含む)」に着目する点にあります。

比較項目既存のABL(動産・債権担保融資)企業価値担保権
設定・登記の手続き資産ごとの個別設定・動産譲渡登記、債権譲渡登記などを個別の財産ごとに、あるいは集合物として設定・登記する必要がある。信託スキームを用いた一括登記・信託会社(または信託を兼営する金融機関)を介し、商業登記簿に一括して登記されるため、手続きの簡素化が図られている。
デフォルト(破綻)時の対応個別資産の清算・回収・担保権を実行し、対象となっている在庫の売却や、売掛金の直接回収によって債権を清算する。事業譲渡が原則・会社をバラバラに解体するのではなく、裁判所の監督下などで事業を一体としてスポンサーへ譲渡し、その対価から回収を図る。
経営への制約・関与物件・数値のモニタリング・在庫の数量管理や売掛金の増減など、担保物の維持・管理に主眼が置かれる。伴走支援とコミュニケーション・平時から事業計画の進捗を共有する。事業者は通常の営業範囲を超える財産処分を行う際、担保権者と事前に協議・同意を得る関係が構築される。
担保の対象範囲特定の個別資産(あるいは集合資産)・売掛債権、商品在庫、機械設備など、個別に特定・処分できるものに限定される。会社の総財産(事業全体)・有形資産だけでなく、ビジネスモデル、技術・ノウハウ、顧客基盤、ブランド、データなどの無形資産、および将来取得する財産も一括して対象となる。
価値評価の思想清算価値(客観的な処分可能性)・「いまその資産を売ったらいくらになるか」を重視。簿価に掛け目を乗じて担保価値を算出する。継続企業価値(将来の事業性)・事業が将来にわたって継続されることを前提とし、事業計画や強みを評価して**将来獲得されるキャッシュフロー(EBITDA等)**を重視する。

企業価値担保権とABLの関連性・協調実務

自己査定・引当実務における補完(一般担保としての考慮)

 企業価値担保権は「将来の事業継続」を前提としているため、事業が完全に停止した際には価値を見込みにくい(無担保に近い扱いになる)という懸念があります。
 しかし、金融庁のFAQ等によると、企業価値担保権が設定された総財産の中に「ABLの要件を満たす財産(明確に処分・評価が可能な売掛債権や在庫、あるいは不動産など)」が含まれている場合、それらの価値は「一般担保」として、個別のABL設定の有無に関わらず従来通り自己査定や引当において考慮することが可能とされています。つまり、企業価値担保権の中にABL的な資産評価が内包される形で実務が担保されているということです。

米国などの先行事例に見る「ハイブリッド運用」

 実務の先行事例となる米国等では、銀行が「EBITDA(キャッシュフロー)」(利払い前・税引前・減価償却前利益)に着目して事業全体をモニタリングする一方で、売掛債権や在庫に対しては掛け目を設けて資産価値を測るという、「企業価値担保(全資産担保)」と「ABL」を組み合わせたハイブリッドな融資・審査実務が一般的となっています。日本でも同様に、総体としての企業価値担保権の枠組みの中で、個別資産の管理手法として既存のABLのノウハウが活かすことができるかもしれません(「企業価値担保権の活用に向けた報告書(2024年度)」(2025年3月27日 企業価値担保権の活用に向けた協議会)P26参照)。

他の債権者による個別担保(ABL)実行への「異議申立権」

 企業価値担保権の特徴として、「事業の継続に支障を来すような、他の債権者による個別担保権(抵当権や、後順位のABLなど)の実行に対して、実行異議を申し立てる権利」が認められています(事業性融資推進法第19条)。これにより、一部のABL債権者が在庫や債権を個別に差し押さえて事業をストップさせてしまうリスクを防ぎ、メインバンク等が企業価値担保権を盾に事業を一体として維持・再生へと導くことが可能になります。

信用保証制度との併用時の留意点

 企業価値担保権を導入する際、実務者が最も警戒すべきは「事業性融資推進法第12条」による制限です。安易に信用保証付きの債権を企業価値担保権の対象である「特定被担保債権」に含めてしまうと、法的な制約により、金融機関の「保険」であるはずの代位弁済が機能しなくなります。

代位弁済請求権が制限される主なケース

 事業性融資推進法第12条に基づき、以下のいずれかの条件に該当する「信用保証付き債権」を企業価値担保権の対象(特定被担保債権)に含めてしまうと、金融機関は信用保証協会に対して代位弁済請求等を行うことができなくなります

  • 金融機関が個人保証を徴求している場合:数人の保証人がいる中で、そのうちの一人でも個人が含まれる場合(法12条1項3号イ)。
  • 信用保証協会の「求償権」に対して個人保証がある場合:協会が代位弁済した後に債務者へ請求する権利(求償権)について、経営者等の個人が保証人となっている場合(法12条1項3号ロ)。
  • 信用保証協会の「求償権」に対して個人の生活本拠不動産等が担保に入っている場合:協会の求償権を担保するために、個人が所有する自宅不動産(生活の本拠)等に担保権が設定されている場合(法12条1項3号ハ)。

金融機関の必要な対応

 代位弁済請求権が制限されるケースに該当した場合、金融機関は以下のいずれかの対応をとる必要があります。

  • 債権の除外: 当該の保証付き債権を、企業価値担保権の特定被担保債権の範囲から除外する(信託契約書にその旨を明記する)。
  • 保証・担保の解除: 信用保証協会と相談の上、了解が得られれば、協会側の個人保証や担保を解除する。

 なお、信用保証協会が企業価値担保権の設定に際して個人保証等を解除するかどうかは、各信用保証協会が「諸般の事情を考慮して」判断することになっており、そのため、金融機関が解除を求めても、必ずしも応じられるとは限らないとされています(「企業価値担保権制度と信用保証制度の利用に関する留意事項」(2026年5月)金融庁・中小企業庁)」P3)。
 このように、解除の可否は保証協会の総合的な判断次第であり、必ずしも希望通りに進むとは限らないというリスクがあります。また、企業価値担保権を既に利用している中小企業が追加の保証を申し込む際には、金融機関から信用保証協会に対し、新たに「将来性展望シート」の提出が義務付けられています。この「将来性展望シート」には、以下の事項を具体的に記載することが求められています。

  1. 足元経営状況及び将来見通し
    ○事業の強み・弱み、外部環境
    ○経営状況・財務状況
    ○将来見通し→当面の売上見通し、投資計画、将来的な課題(設備更新、法規制、後継者 等)
  2. 信用保証協会による保証が必要な理由・経緯等
    ○当該案件の資金使途
    ○企業のビジネスモデルやその課題
    ○上記事項等を踏まえた、当該案件におけるリスク・懸念事項
    ○企業価値担保権の制度目的を踏まえた予兆管理・伴走支援の方針

成功の鍵は、やっぱり、目利きの向上、バリエーション算定の精度

事業価値(企業価値)の算定における今後の課題(総括)

 企業価値担保権の担保目的財産は、将来取得分を含む総財産(のれんを含む)とされています。地域金融機関担当者・実務者が担保適格性を検討する場合においては、 将来のキャッシュフローなどの財務データに加え、キャッシュフローの源泉となる定量的な事業のドライバーやKPIの分析及びノウハウ、顧客基盤、ブランド、データといった目に見えない無形資産(のれん部分)を可能な限り、客観的に評価する必要があると思います。
 さらに、ヒューマンリソース、特に、経営者の質も大事な評価事項になると思います。そして、一番大事な事項としては、その中小企業が属する業界全体の今後の成長性です。そのためには、地域金融機関担当者・実務者は、その業界が利益を生む構造やトレンドなどに精通しなければいけません。単に、評価時点での財務データの数値だけで判断してはいけないということです。

事業価値(企業価値)の算定における今後の課題(各論)

将来見通しへの「主観」への依存と事業停止時の価値毀損

  • 客観的な処分価値の欠如: 従来の不動産担保等は「いま売却したらいくらになるか」という客観的な処分(清算)価値を見込みやすい性質を持っています。
  • 事業停止による価値消失: 一方で事業価値(企業価値)は、将来のキャッシュフロー予測や事業計画といった「将来見通し等の主観」に大きく依存します。そのため、万が一事業が停止してしまった場合には、その価値を担保として考慮することが極めて困難(無担保に近い状態)になるという根本的な課題があります。

「のれん(無形資産)」の客観的評価の難しさ

  • 無形資産の評価実務: 企業価値担保権は、ノウハウ、顧客基盤、ブランド、データといった目に見えない無形資産(のれん部分)を担保に含める点に特徴があります。
  • 実績の積み上げが必要: しかし現時点の実務においては、これらの「のれん」部分を客観的に評価し、明確な担保価値として見なすための手法や基準が確立されていません。信頼に足る算定を行うには、今後の取扱実績の積み上げが必要とされています。

金融機関における「事業性評価・モニタリング」の能力不足

  • 情報の非対称性と目利き力: 事業価値を適切に算定・維持するためには、金融機関側が事業者のビジネスモデルや将来性を深く理解する「目利き力」が必要となります。
  • 期中管理・KPI設定の難しさ: 単に融資初期の審査時だけでなく、平時や業況悪化時にバリュードライバー(価値の源泉)となる適切なKPI(重要業績評価指標)を設定し、モニタリング(予兆管理)していくための高度な期中管理フレームワークや目利き人材の育成が、金融機関側の大きな課題となっています。

資産査定(自己査定)および引当金への反映ルール

  • 「一般担保」として扱えない不確実性: 金融庁のFAQなどでも、企業価値担保権が把握する企業価値そのものは不確実性が高いため、原則として不動産担保のような「一般担保(客観的な処分可能性がある担保)」としては扱えないと明記されています。
  • 柔軟な債務者区分判定とのバランス: 一方で、企業価値担保権を通じて金融機関が事業の実態を深く把握することにより、将来情報を踏まえた柔軟な債務者区分判定(区分の引き上げなど)への反映は期待されているものの、それを具体的にどのような引当基準や会計実務に落とし込むべきかという明確な指針の平準化が課題となっています。

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