同一労働同一賃金の施行5年後見直しに向けた報告書案を提示(その2)

(Chat GPTにより生成)

 前回の「同一労働同一賃金の施行5年後見直しに向けた報告書案を提示(その1)」では、令和7年12月25日開催の「労働政策審議会 職業安定分科会・均等部会 同一労働同一賃金部会(第29回)」に提出された「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(平成30 年厚生労働省告示第430 号。「同一労働同一賃金ガイドライン」以下、「現行ガイドライン」)」の見直し(案)について、目的及び基本的な考え方などの総則的な部分についての変更内容について、その概要を整理させていただきました。

 今回、その2では、基本給ほか各個別の待遇項目(支給項目)の主な変更点について、整理させていただきました。

目次

変更があった待遇項目の内容

 現行ガイドラインと見直し(案)との比較で、追記又は新設等の変更があった主な事項については、次のとおりとなっています。

賞与(追記)

 見直し(案)では、留意事項(注)として、長澤運輸事件(最二小判平成30年6月1日労判1179号34頁)を踏まえた追記がされています(マーカー部分は、筆者が追記。)。
 追記内容は、賞与については、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的として、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の労働意欲の向上等の様々な性質及び目的が含まれうるものであり、当該待遇の性質及び当該待遇目的の内容に留意すべきとしています。
 そして、通常の労働者と同様に短時間・有期雇用労働者にも当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的が妥当するにもかかわらず、短時間・有期雇用労働者に対し、通常の労働者との間の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの相違に応じた均衡のとれた内容の賞与を支給せず、かつ、その見合いとして、労使交渉を経て、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的が妥当しない他の短時間・有期雇用労働者に比べ基本給を高く支給している等の事情(いわゆる代償措置)もない場合、当該賞与の相違は不合理と認められるものに当たりうると追記されています(マーカー部分は、筆者が追記。)。
 「同判決は、賞与に関して不合理と認められる待遇の相違を具体的に判示したもの(判決では、定年退職後採用の嘱託乗務員に賞与が支給されないことは、旧労働契約法第20条に違反しないとの個別判断をしています。)ではないが、賞与の性質・目的等について言及しており、当該内容を留意すべき事項として記載したもの。」(マーカー部分は、筆者が追記。)。とコメントしています。

 賞与支給の性質・目的が、短時間・有期雇用労働者にも妥当する場合、均衡のとれた支給をせず、かつ、基本給を高く設定する等の代償措置もない場合は、不合理と認められる可能性があります。

退職手当(新設)

 見直し(案)では、退職手当の項目が新たに項目が新設されています。現行ガイドラインでは、項目自体の記載がなく、新設されたものです。
 内容については、東京メトロコマース事件(最三小判令和2年10月13日労判1229号90頁)を踏まえたものとコメントされています。前記の賞与と同様、「同判決は、退職手当に関して不合理と認められる待遇の相違を具体的に判示したものではないが(正社員と契約社員の間の退職金支給の相違が不合理と成り得る場合もあるとの一般論を前提に、同判決では、契約社員への退職金不支給は不合理ではないと、個別事案の結論が出されています。)、退職手当の性質・目的等について言及しており、当該内容を留意すべき事項として記載したもの。」(マーカー部分は、筆者が追記)とコメントされています。

 追記された内容は、退職手当の基本的な考え方として「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的として、労務の対価の後払い、功労報償等の様々な性質及び目的が含まれうるもの」とし、「通常の労働者と同様に短時間・有期雇用労働者にも当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的が妥当するにもかかわらず、短時間・有期雇用労働者に対し、通常の労働者との間の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの相違に応じた均衡のとれた内容の退職手当を支給せず、かつ、その見合いとして、労使交渉を経て、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的が妥当しない他の短時間・有期雇用労働者に比べ基本給を高く支給している等の事情(代償措置)もない場合、当該退職手当の相違は不合理と認められるものに当たりうることに留意すべきである。」(マーカー部分は筆者が追記)と記載されています。
 賞与と同様、退職手当支給の性質・目的が、短時間・有期雇用労働者にも妥当する場合、均衡のとれた支給をせず、かつ、基本給を高く設定する等の代償措置もない場合は、不合理と認められる可能性があります。

無事故手当(新設)

 見直し(案)では、無事故手当の項目が新たに項目が新設されています。現行ガイドラインでは、項目自体の記載がなく、新設されたものです。ハマキュウレックス事件(最二小判平成30年6月1日労判本号20頁)の判決を踏まえ、新設、追記されたものです。記載内容は、判決の結論そのものとなっており、「通常の労働者と業務の内容が同一の短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の無事故手当を支給しなければならない。」とされています。 

家族手当(新設)

 見直し(案)では、家族手当の項目が新たに項目が新設されています。現行ガイドラインでは、項目自体の記載がなく、新設されたものです。日本郵便(大阪)事件(最一小判令和2年10月15日労判1229号67頁)の判決を踏まえ、新設、追記されたものです。記載内容は、「労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の家族手当を支給しなければならない。」とされています。

 日本郵便(大阪)事件の最高裁判決では、家族手当(扶養手当)の目的を「扶養家族の生活費用の補助」とし、「長期継続勤務の期待と確保」を図るものであるから、同様に、相応に継続勤務が見込まれる契約社員にの支給しないのは、旧労働契約法第20条に違反し、不合理とされました。見直し(案)では、(問題となる例)として、同趣旨の内容が追記されています。

住宅手当(新設)

 見直し(案)では、住宅手当の項目が新たに項目が新設されています。現行ガイドラインでは、項目自体の記載がなく、新設されたものです。ハマキュウレックス事件(最二小判平成30年6月1日労判本号20頁)の判決(この事件では、正社員全員が転勤義務を負っていたため、不合理とはされませんでした。)を踏まえ、新設、追記されたものです。
 記載内容は、「住宅手当であって、転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給されるものについて、通常の労働者と同一の転居を伴う配置の変更がある短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の住宅手当を支給しなければならない。」とされています。
 また、(問題となる例)として、実態として転居が命じられていない通常の正社員のみに住宅手当を支給し、短期・有期雇用労働者には支給しないことは、不合理である趣旨が記載されています。
 さらに、住宅手当のうち、「転居を伴う配置の変更の有無にかかわらず支給されるものについても、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないことに留意すべきである。」とされています。この場合、当該住宅手当の目的・性質(支給する理由)をよく吟味する必要があるかと思います。
 なお、前記また書き以降の内容は、資料には記載はありませんが、前掲の東京メトロコマース事件、日本郵便(大阪)事件及び日本郵便(東京)事件(最一小判令和2年10月15日労判1229号58頁)での控訴審判決及び最高裁上告不受理を踏まえたものとなっていると思料します。

福利厚生ー福利厚生施設(追記)  

 見直し(案)では、福利厚生施設(給食施設、休憩室及び更衣室)の利用条件についても、職務の内容等を考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないことを明確化するため、追記がされています。追記された内容は、「福利厚生施設の利用料金・割引率等の利用条件についてもパートタイム・有期雇用労働法第8条の適用を受けるものであり、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」とされています。

福利厚生ー病気休職(追記)

 現行のガイドラインでは、有期契約でない短時間労働者については、通常の労働者と同一の病気休職の取得を求め、有期雇用労働者については、労働契約が終了するまでの期間を踏まえて病気休暇の取得を認めるべき旨の記載がされています。

 資料によれば、見直し(案)では、前掲の日本郵便(東京)事件の最高裁判決を踏まえて追記がされています。同事件では病気休暇中の給与保障を争った事案です。これを踏まえ、見直し(案)では「通常の労働者に病気休職期間に係る給与の保障を行う場合には、労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の給与の保障を行わなければならない。」と記載されました。

 日本郵便(東京)事件の判決では、病気休暇を有給扱いする目的は、通常の労働者である正社員には長期継続勤務が期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じ、本来、休職(債務不履行)による解雇を猶予し、長期継続勤務期待と確保を図るものだとしました。このような意味では、短時間・有期雇用労働者であっても、更新を繰り返すなど、相応に継続的に勤務が見込まれる者について、病気休暇日数に差を設けることは格別、私傷病による給与保障に相違を設けることは、不合理であるとし、労働契約を反復更新して勤続10年以上の時給制契約社員に、有給の病気休職を認めないことは違法としました。

 なお、「相応に継続的な勤務が見込まれる」とは、どのくらいの期間を指すのか?見直し(案)では、特に言及されていません。この点について、日本郵便(東京)事件と争点が類似する裁判があります。学校法人大阪医科薬科大学事件(最三小判令和2年10月13日労判1229号77頁)です。詳細な説明は割愛しますが、この事件では、勤続約2年余りのアルバイト職員に有給の病気休職を認めないことについては、不合理ではないとされています。

 よって、どこで線引きを引くかがですが、前掲日本郵便(大阪)事件の控訴審(大阪高判平成31年1月24日労判1197号5頁)では、通算契約期間が5年を超えた日以降の病気休暇の相違は不合理と判断され、この点については、最高裁では上告不受理されています(当該判断が確定)。個別事案なのか、最高裁としての見解なのか、はっきりしませんが、一つの参考になるかと思います。

福利厚生ー夏季冬季休暇(新設)

 見直し(案)では、夏季冬季住宅手当の項目が新たに項目が新設されています。現行ガイドラインでは、項目自体の記載がなく、新設されたものです。資料によれば、日本郵便(佐賀)事件(最一小判令和2年10月15日労判1229号5頁)の判決を踏まえ、新設、追記されたものです。 

 この事件は、時給契約社員に対して、夏季冬季休暇の特別給与を全く付与しないことについて、年次有給休暇や病気休暇等とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図るという目的は、繁忙期に限定された短時間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている時給制契約社員にも妥当するので、旧労働契約法第20条の趣旨に照らして不合理と判断されました(前掲の日本郵便(東京)事件上告審及び日本郵便(大阪)事件上告審も同旨)。
 なお、前掲の学校法人大阪医科薬科大学事件でも、夏季特別休暇について、蒸し暑い夏に休暇を与えてリフレッシュを図らせる趣旨のものであるとして、フルタイムで勤務するアルバイト職員に対してこれを付与しないことは不合理とされました。

褒賞(新設)

 見直し(案)では、「褒賞であって、一定の期間勤続した労働者に付与するもの」という項目が新たに項目が新設されています。現行ガイドラインでは、項目自体の記載がなく、新設されたものです。資料によれば、東京メトロコマース事件の高裁判決(東京高判平成31年2月20日労判1198号5頁)を踏まえての新設、追記となっています。
 具体的には、「褒賞であって、一定の期間勤続した労働者に付与するものについて、通常の労働者と同一の期間勤続した短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の褒賞を付与しなければならない。」とされています。

名古屋自動車学校事件の差戻審判決

 前回の記事「同一労働同一賃金の施行5年後見直しに向けた報告書案を提示(その1)」中に名古屋自動車学校事件について触れました。先月26日、この差戻審(名古屋高裁)の判決が出ました。
 まだ、判決文や参考文献等を読んでおらず、新聞記事等の内容に基づくものでしかコメント出来ませんが、まず、差戻審(名古屋高裁)の判決は、元教習指導員が定年後に再雇用された嘱託職員側が勝訴、学校側に計336万円の支払いが命じられました。

 ところで、差戻審前の最高裁判決では、有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者との基本給・賞与に不合理となり得る場合があること、その基本給・賞与の相違が不合理と認められるか否かの判断に当たっては、使用者における基本給及び賞与の性質、これらを支給することとした目的を踏まえて、改正前労働契約法第20条所定の諸事情を考慮して、不合理となるか否かを検討すべきとしました。各待遇(基本給・賞与)の当該性質や目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部を不合理とした原審の判断には、改正前労働契約法第20条の解釈運用を誤った違法があると判断し、原審に差戻された経緯があります。

 差戻審の判旨は、新聞記事によると、「正社員指導員の基本給は勤続給や職能給の性格が小さく職務給の割合が高い。嘱託職員の基本給も職務給としての性質を有し、正社員の職務給と同質のものといえる」と認定され、「経験豊富な嘱託職員の基本給が若年者を大きく下回ることは、不合理(旧労働契約法第20条)」とされました。

 しかし、あるべき基本給の額の算定については、差戻審前の第一審(名古屋地裁)では、「定年退職時前の60%を下回れば不合理」とされたことに対して、今回、名古屋高裁が命じた賠償金はこの60%より低い割合での額となっていたようです。また、その額の算出方法も明らかにされなかったそうです。

 このため、嘱託職員側は再び上告、敗訴した学校法人側も上告したそうです。 

 詳しい資料を読んでいないので、正しい解釈は出来ないかもしれませんが、まず、名古屋高裁が基本給の性質を職能給の割合が高く、嘱託社員の基本給も職務給としての性質を有すると判断したことは、正に、同一労働同一賃金の趣旨に適うものだと思います。その根底には、いわゆるジョブ型雇用というものがあるかと思いますが、現在の日本の企業の基本給の考え方はメンバーシップ型雇用の考え方が大半であり、職能給の考え方が中心になっています。そして、定年を境にその能力が減退するという一般論により基本給が大幅ダウンされているのが現状です(特に、ホワイトカラーで。)。

 学校法人側も嘱託社員の基本給について「高年齢雇用継続給付金や厚生年金を受けても生活レベルが下がるため、生活補助を目的として支給されるもの」と考えているようです。いわゆるお情け的な賃金です。

 この現在の日本の雇用慣行をいきなり変えるのは非常に難しいと思います。確かに、限りある賃金の原資を若い人にある程度回さないと、この人手不足の中、人が集まらないなど会社側の経営方針も当然にあるかと思います。また、既に受け取った退職金がある場合、その金額の多寡も考慮される要素の一つだと思います。
 そうした状況のもと、納得感がある短時間・有期雇用労働者の賃金水準については、業務量や責任の程度を軽くする、賃金水準を低めに設定したうえ、有給休暇+無給休暇の付与で休暇日数を増やしたり(稼ぎたいたい人のために歩合給も設定)するなど、バランスの取れた待遇を考える必要があるかと思います。
 そういった意味で、この事件での問題は、定年前の職務の内容や責任の程度が同じままで、低賃金で働かせたということだと思います。

 今回の見直し(案)では、定年後再雇用労働者であることをもって、直ちに正社員の待遇との相違が不合理ではないと認められるものではないと明確化されています。この点について、名古屋高裁が嘱託社員の基本給の性質を職務給としたことは、注目すべき点だと思います。

 なお、名古屋高裁は、この嘱託社員らが学校法人側に待遇是正を求めた際、不誠実な対応をし、旧労働契約法第20条の不合理性を判断する要素の一つである十分な労使協議を経ていないとしました。(その1)でも記述しましたが、今回の見直しでは、「労働者に対する待遇に関する説明義務」(省令改正等)も検討されています。
 結局は、同じ人間同士、理屈ではなく感情で動く部分もあるかと思います。この事件も、嘱託社員らが話し合いの求めをした時、学校法人側も誠実な対応をしていれば、多少、方向性は変わったのかもしれません。差戻審前の第一審(名古屋地裁)の判決が2020年10月、提訴がされた月日はわかりませんが、既にそれから6年半以上の月日が経過しています。学校法人側も、時間という資源、裁判にかける労力及びお金、相当程度のコストを費やしているかと思います。

 (その1)でも記しましたが、正社員、短時間・有期雇用労働者双方にその理由について、納得感を得られることを主眼として、事業主と正社員、短時間・有期雇用労働者側とのコミュニケーションを綿密に図り、先ずは、事業継続という一つの目標を全社員が共有する雰囲気を醸成していくことが、事案が泥沼化する防止策の一つだと思います。

 今後の最高裁の判断が注目されるところです。

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